ギフトの知識 日本独自のギフト文化 – Ⅱ
『熨斗』(のし)

前回、熨斗紙(のしがみ)についての説明をいたしましたが、今回のギフトの知識「日本独自のギフト文化-Ⅱ」では、その熨斗紙の右上に付いている(最近は印刷になっている)「熨斗」(のし)についてのお話になります。また熨斗は水引と一緒に用いられることが多いです。

まず最初に、

◆ 「熨斗」とは何?

一般的な折熨斗(のし)

 

普段、印刷された熨斗紙を目にするので、多くの人は “熨斗”については意外に知らないことが多いのではないかと思います。しかし 贈り物と“熨斗”の関係には、古くから重要な関わりがあるのです。

まず、一般的に“熨斗”は「お祝い事」の贈答品の包みに添えたり、ご祝儀袋に添えるもので、心から「おめでたい祝意」を示す“礼節の証”なのです。

本当の“熨斗”は当たり前ですが印刷では無く、表裏が紅白の2色の紙を重ねて、中に鮑(あわび)を細く切って板状に乾燥させたもの(黄色の部分)を細長い六角形に折った中に入れたものをいいます。だから“のしあわび”が省略されて“のし”と呼ばれるようになりました。(いまは本物の鮑の代わりに黄色いビニールや紙を使用)

本来この“熨斗”は、紙を折ることから“折熨斗”といいます。

 

◆ おめでたい祝意に何故“鮑”なのか?

それは、古く中国では“鮑”(あわび)は、不老不死の仙薬といわれており、その昔、日本でも延寿を授けられた特別な食物といわれていました。即ちこの鮑は〝不老長寿〟につながり、これをさらに“伸ばす”ことは命を延ばすこと、また家系を延ばす(のす)や商いを延ばす、武運長久など、縁起に掛けて婚礼、出産といったあらゆるおめでたい祝意の証として贈られるようになり、いまの熨斗につながっていきます。如何にも日本人らしい縁起に糸付けした考え方ですね。

因みに、もともと“熨斗”は“火熨斗”(ひのし)と呼ばれており、これはいまでいう“アイロン”を指します。「鮑を伸す=アイロンで伸ばす」といことになるのでしょうか。(本当にアイロンを使ったかは?ですが・・・)

※この熨斗は現代中国語では“ユンドゥ”とも読みますがアイロンを意味します。

また、小さな物を“小熨斗(このし)”や“折熨斗(おりのし)”と呼ばれています。

熨斗の由来は?

国定(三代豊国)「伊勢の海士 長鮑制之図」(いせのあま のしをせいすのず)

熨斗の原点“熨斗鮑”(のしあわび)は、古くは奈良時代の「日本書紀」(720年)に登場します。この日本書紀によると、天照大神(あまてらすおおみかみ)の命によって倭姫命(やまとひめのみこと)が伊勢に御鎮座を終えたのち、 志摩の国崎(くざき)で海女から差し出された鮑にえらく感動し、伊勢神宮への献上を求めたそうです。 海女はこれに応えて「承知しました。生のままでは腐りますので、薄く切って乾燥させましょう」と . . . これが、いまに伝わり三重県鳥羽の国崎町で古式ゆかしく作り続けられる熨斗鮑のはじまりになりました。

他にも熨斗鮑にまつわる伝承もあり、「肥前国風土記」(ひぜんのくにふうどき/712〜732年以後数年の間)の中には、征服された辺境の民が命乞いをするために熨斗鮑に模したものを木の皮で作ってみせるという話が記されており、 平城宮跡出土の木簡(722年)に安房国(あわのくに)から熨斗鮑が物納されたことが記されています。

更に、鎌倉時代の「吾妻鏡」(1180〜1266年)にも、熨斗鮑が年貢として納められたという記述があります。

古来から鮑は保存食でもあり、水でもどして煮て食べれば精がつくというものでした。それ故、戦国時代の武士たちの書状には、 戦勝祈願で千本、二千本の熨斗鮑が贈られたことが記されており、熨斗鮑は陣中見舞いや武運長久(ぶうんちょうきゅう)の縁起ものとして贈られるようになりました。

この鎌倉・戦国時代あたりから熨斗鮑は、美味で栄養価の高い食べ物だけでなく、不老長寿など様々な縁起を願う最上の贈答食品として用いられるようになったようです。

そして江戸時代に入ると、熨斗鮑を贈答品に添えて祝意を伝えるという使い方が記録に登場します。

更に江戸中期に伊勢貞丈(いせさだたけ)が書き留めた武家の礼法“伊勢流”を伝える著「貞丈雑記(ていじょうざっき)」(1843年)の中に、江戸以前にはなかった「進物にのしを添える事」というしきたりが書かれておりそれが定着していきました。この「貞丈雑記」では、熨斗鮑の包み方を京都将軍家の庖丁人、大草家(おおくさけ)の包形にならうと記されており、白い和紙に赤く染めた和紙を重ね合わせ、束ねた熨斗鮑を包んで水引で結び止めたものが、 その後時代を経ていまの「折熨斗」へと変化していきました。

“熨斗袋”は、明治時代に入り商売の慣習で年末年始のご挨拶として得意先に渡す品として益々一般に広がっていきました。

当時、熨斗は「折形」(おりかた)といって答品をで包む作法を身につけることが女性の高い教の一つとされ、 高等女学校では必科目となるほど。熨斗袋も折熨斗も手づくりされる一方で、 めざましい印刷技術の発達によって、デザインされた多彩な市販品も出回り、“熨斗”をつけることはさらに一般化していったのです。

その昔、熨斗の折り方が高等女学校の必須科目だったなんて驚きです。でも、他の学科よりも楽しかったでしょうね。

こんな熨斗のルーツを知ると、印刷でない折熨斗が付いている贈答品を頂いたとき、なんだか贈り主の特別な思いやお気遣いが伝わってきますね。

 

◆ 熨斗のルール

まず、ふたつだけ絶対に熨斗をつけてはいけないルールがあります。

1)葬式や法事などの“事”(お悔やみ事)のです。仏教では生臭(なまぐさ)物を摂ることは殺生とされ、仏事でも避けられます。ですから、弔事用の不祝儀袋には熨斗がありません。

2)熨斗は鮑を象徴し生臭になります。贈答品が同じ生臭にあたる肉や海物(魚介類)の合は、品物が重することになるから熨斗はつけません。

 

◆ 熨斗の作法

言うまでもないことですが、熨斗がついているものと印刷された熨斗紙の使い分けについての説明になります。

  • 正式な贈答品の場合 : 熨斗紙(白無地の紙)に水引をかけ、折熨斗をつけます。
  • 略式の贈答品の場合 : 印刷されている熨斗紙を使ってよいとされています。

贈答品を買い求めるとお店側のサービスで熨斗紙を掛けて頂けます。故に中元・歳暮など、多くの贈答品で印刷された熨斗紙が用いられ、一般化されています。しかし、婚礼や目録のあるもの、また高価なもの(御祝袋の現金なども)は正式な贈答として熨斗をつけた対応をした方がいいでしょう。

そしてもう一つ、マナーとして守るべきことがあります。贈り物をいただいたら、御礼の返礼を心がけたいもの。折熨斗のついた贈り物であればなおのこと、返礼するのは作法であると心得ておきましょう。

 

◆ ところで「熨斗」って販売しているの?

ズバリ!熨斗だけの販売はしています。しかし、印刷された熨斗紙が広く浸透していますので店頭で扱っている所を探すのは中々難しいです。身近な所では大手百貨店や結納用品等を扱っている所が有力になります。

祝儀袋などでは折熨斗、水引がついたものはよく見掛けます。

また、熨斗はご自分で手作りされても問題は無いです。最近では伝統形式にとらわれないデザインやカラフルな色を使ったものも見掛けるようになりましたので親しい友人やカジュアルな贈り物などに使ってもいいでしょう。

但し、結婚や正式な慶事に使うのには不向きですから注意しましょう。

 

◆ 熨斗の種類

熨斗には「折熨斗」や印刷されたものに、いくつかの種類があります。

<折熨斗>

 

 

<印刷のし>

 

ギフトの知識「日本独自のギフト文化 – Ⅱ 熨斗」について如何でしたでしょうか。

起源は様々ですが、縁起に結びつけて、更に良いことに広げ、結びつけて行く . . . なにか前向きな姿勢すら感じてしまいます。そして日本人の相手を敬う心が古くから培われ、いまに伝わっていることの素晴らしさに感動します。

様々なものや慣習が時代と共に変化し、この熨斗のデザインや大きさなどにも時代の変化がみられます。

しかし、日本人が「熨斗」に日頃の感謝や喜びを祝う気持ちを託して贈り物をする・・・この文化は、時代ゝに変化しながらも永遠に消えてなくなることはないでしょう。

次回のギフトの知識「日本独自のギフト文化 – Ⅲ(最終)」では熨斗紙を結わく“水引”になります。

長文ながら最後までご高覧いただきまして有難うございました。

【出典参考】

熨斗の世界

熨斗の製作・販売から事業を開始しされた(株)エム・パックが運営する熨斗の世界を説明した貴重なサイト。

飯田水引協同組合

水引の一大産地長野県飯田の協同組合のサイト。冠婚葬祭の必要用具が揃うオンラインで熨斗の販売もあり。

Wikipedia、熨斗の世界、アソビュー!熨斗の書き方、SASAGAWA贈答マナー、他